9月5日、広島で被爆した松村宏さん(2013年死去)のご遺族・西尾実(み)葉(よ)枝(し)さん(長女・神奈川県原爆被災者の会二世支部会員)より、当時、中国軍管区司令部獣医部に勤務していたお父様の遺された資料をご寄贈いただきました。
松村さんは被爆当時25歳の陸軍大尉(獣医)。8月5日夜の空襲警報で出庁し、6日の午前2時頃に千田町の下宿に帰って就寝、6日朝の登庁時間を遅らせたため、九死に一生を得ました。
寄贈いただいた主な資料は次のとおりです。
○ 軍関係の被害状況に関するもの
・「八、六廣島市被害状況」(8月13日付、中國軍管區司令部、ガリ版刷り。表紙に手書きの赤字で「軍事極秘」と記されている)
・馬事戦訓(下書き及び一部清書されたもの)
・戦災概説(人員に関する調査:戦死者現場調査表・死没者名簿、獣医部情況報告など)
・管内部隊戦災調査、救護班関連資料、獣医部勤務者・戦死者名簿、戦死者調査表等)
○ 松村さんが携わった「継承業務」(戦後処理)に関する資料
・継承諸業務ノ状況(遺族への連絡文書、貯金高調など)
・遺族ノ通信・死亡證言書、遺骨(に関する資料)
・靖國神社合祀・特別合祀陸軍々人軍属上申名簿
○ 松村さんの体験に関する記録
・原子爆弾遭難記録 昭和22年5月追想記
・申述書(昭和33.5.22、被爆者健康手帳申請時のものと思われる)
被爆直後(終戦前)の軍隊内の詳細な被害状況の調査・報告は、一部謄写印刷はあるものの、ほとんどが松村さん他による手書きの資料で、中には、獣医部の被害状況の図面(死亡現場や確認された人名などを記す)も見られます。「八、六廣島市被害状況」は、『広島原爆戦災誌』第五巻(資料編)に複写で収録されており、現物は呉の大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)に所蔵されているそうです(中国新聞調べ)が、きわめて希少な資料です。多くの手書きの資料は唯一無二のものと言えるでしょう。
松村さんは、北海道で畜産関係の仕事をし、定年後も札幌に住んでおられました。北海道被団協が発行した『被爆者の証言』(1988)、『続・被爆者の証言』(1996)にも、それぞれ手記を寄せておられます。長女の西尾さんがお母さまに聞いたところ、これら被爆関係の資料があることが明らかになったのは、2006年に転居した際とのこと。どこかで役立ててもらえないかと思いながら、適当な機会のないまま今に至った、ということのようです。用紙はかなり劣化しているものの、きちんと保存されていました。
たくさんの貴重な資料のご寄贈に、心より感謝申し上げます。
7月の西村利信さん「原爆体験記」(1949年執筆)につづいて、このたびの松村宏さんの資料をいただき、70年もの歳月が経っても、まだまだ貴重な資料が眠っていることを思い知りました。
被爆者のご家族、ご遺族など、関係のみなさんには、そうした資料を残しておられないか、心に留めておいてくださいますよう、また、もし残されていた場合には、捨てずに継承する会にご連絡くださいますよう、お願い申し上げます。