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学習懇談会
シリーズ4 「『要求骨子』から『基本要求』へ=国家補償論の発展をふり返る=」
2016.07.23

日 時:2016年6月4日(土)13:30~16:30

  場 所:プラザエフ5階会議室

  問題提起者:栗原 淑江氏(継承する会事務局)

  参加者:26人(うち被爆者9人)

【概 要】

 問題提起者の栗原さんは、60年代の終わりから被爆者問題に関わり80年代には日本被団協の事務局員を務めました。被団協結成直前からの被爆者の要求の変遷をたどりながら、国の被爆者施策と切り結ぶなかで要求項目が絞り込まれ、「国家補償」の意味や根拠がより深化・発展をとげてきたことが示されました。

 日本被団協の長い歴史の中でも援護法制定運動が大きく昂揚した二つの時期、――①「原爆被害者援護法案のための要求骨子」をもとに各党に援護法案の作成をせまり野党共同の援護法案を国会に上程させた時期、②戦争の被害は国民が受忍すべきだとした「基本懇意見」をのりこえようと全国的な調査や議論で「原爆被害者の基本要求」を策定して援護法制定の国民世論を大きく広げて行った時期――の運動の概要を紹介し、そのなかで、被爆者の求める援護法とは「原爆被害にたいする国家補償」のことであり、①原爆被害とは何なのか、②それをもたらした責任はどこにあるのか、③被害に対する制度の内容はいかにあるべきか、が、ひと連なりのものとして把握されなければならないこと、が明らかになってきた、と指摘しました。

シリーズ4‐(2)「『原爆被害への国家補償』について考え合う=『要求骨子』から『基本要求』へ・その2」

  日 時:2016年7月23日(土)13:00~16:30

  場 所:プラザエフ5階会議室、参加者

  参加者:28人(うち被爆者8人。広島・愛知からも参加)

【概 要】

 前回の報告をもとに、当時の被爆者運動が提起してきた論点を充分時間をかけて深め議論する場を設けました。

 前回の問題提起の要点を、①施策の対象となる原爆被害とは何か、②「国家補償」要求の制度のなかみ(「基本要求」で整理された国家補償の4本柱)、③原爆被害をもたらした日本政府の責任(戦争を遂行した国の責任)、④二大要求(核兵器廃絶と原爆被害への国家補償)の関連、の4点にまとめ、これを受けて、時間いっぱい活発に議論が行われました。

 そのなかで出された意見の概要は以下のとおりです。

○ 国が施策の対象とする原爆被害は、原爆の放射線による障害にしぼられてきた(医療法(1957))。被爆者運動は自らを死没者・遺族・家族を含めた「原爆被害者」としてとらえ、運動の初期から精神的な苦しみにも着目。国家補償要求を掲げた運動で追い詰められた国は、障害の範囲を外傷性のものから内部疾患を含むものへと拡大し、諸手当の所得制限を撤廃するなど、制度の改善を図ってはきたが、現行の「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」でも基本は変わっていない。

○ 国家補償には、被害の補償、責任の明確化、再発防止の意味がある。日本は、軍人軍属には補償しながら、民間人にも、戦後日本人でなくなった軍人にも、補償していない。国家のために死んだ人(軍人・軍属)には50兆円もの予算を使いながら、空襲被害者については調査さえしていない。戦争中の戦時災害保護法は、国が臣民に恩恵として与えるものに過ぎなかった。ヨーロッパでは戦前から、生命や身体障害への国家補償はしており、軍民を区別しているのは日本のみ。命や身体の被害まで斬り捨てているのは、戦争中だから仕方ないと、国家の戦争責任を明確にしていないからだ。

○ 被爆者が自ら立ち上がってたたかいをしてこなければ、国はやってくれるものではない。被爆者が求める国の償いとは、国がふたたび被爆者をつくらないと国民に約束すること。同じことが起こらないよう国の政策転換を求める運動で、これは国民に支持してもらえなければ実現しない。

○ 補償と救済ということばがあいまいに混用されている。「被爆者は補償されている」と言われることがあるが、今の法律は(被害への)補償ではない、現在の状態に着目した“救済法”だ。オバマの広島訪問に際して、被爆者はアメリカに謝罪を求めるのか否かにポイントをおいたマスコミ取材には違和感があった。謝罪は当たり前のことで、核兵器を廃絶すればアメリカが犯した罪への償いだと受けとるということだ。罪と責任についての日本人の責任感覚をきちんとしなければいけないのではないか。

○ 今年の被団協の方針では、「国の償い」を求めてきた5年間の運動を総括し、一区切りして考えてみようとしている。沖縄戦や空襲被害など他の戦争被害者との連帯を広げながら改めて被爆者の問題を考えてみれば、見えてくるのではないだろうか。国の償いと核兵器なくせの2つの課題は被爆者の悲願であり、こうした(学習の)機会を継続してもってほしい。

 2回をつうじて、さらに詰めていくべき課題はたくさん残されています。討議をふまえ、司会の濱谷さんから以下のような課題が投げかけられました。

1.今の法律(原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律)は「国家補償」ではない。それはどういう意味においてなのか。

2.二大要求の不可分の関係について、分かりにくいという意見も出た。「基本要求」でおさえている理念的なことばをもっと詰めていく必要がある。

3.国の償いとは同じことを許さないことだ、という点について、それは援護法制度の中身とどう関連しているのか。

 新法が制定されて20年。「基本要求」から30年が経っている。「基本要求」に示された4つの要求も理念的、抽象的になってきているきらいがあり、今の段階であらためて見直してみる必要があるのではないだろうか。

レジュメ・資料

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